Negishi Takuhei

根岸卓平の演奏日程と、その後記

2018.09.14(金) 於 新宿二丁目 カフェ・ラバンデリア

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《出演》
カニコーセン(from 加古川
根岸卓平

ライブ前にカニさんと2丁目の公園で、コンビニコーヒー片手にお茶をした。

カニさんとは9ヵ月ぶりに話す。関西にいた頃は喫茶ポエムでもライブでも、街でもよく見かけていたので、出会って以来こんなに顔を合わせていないのは初めてだと思う。

朝にポエムのマスターから「アイツほんまアカン話」がLINEで入っていて、カニさんも、割と開口一番近い具合に「アイツほんまアカン話」をしていた。「アイツほんまアカン話」というのは、「アイツほんまアカン」と誰かを揶揄する話なのだが、そういえば前に幼馴染が東京に遊びに来た時も「アイツほんまアカン話」をしていた。いや、それはわたしから振った「アイツほんまアカン」やった。

「元気にやってます」という話をしたいと思ったけれど、どういう話をすれば「元気にやってます」が伝わるのだろうと来る前に少し考えていて、例えばパリコレモデルさんにインタビューしましたと話しても、それはなんとなく自慢っぽく聞こえるし、そもそも「元気です」という報告自体が自慢に近いのかもしれない。

するとカニさんから「会ったら聞こう思っててんけど、パパ活って知ってる?」と訊ねられる。カニさんはさっき初めて、「パパ活」という言葉を知ったのだという。

わたしも、パパ活という言葉は東京にきてから知ったけれど、と前置きして、パパ活というのは愛人契約をラフに言い換えたもので、でも愛人契約って大変で、例えば上原あずみはコナンの歌うたってテレビも出てたのに、愛人契約がバレてカリビアンコムでMUTEKIです、という風に明かした。

ほんとは歌番組でスクワットするようにうたってたので、わたしと同じくビーイングの追っかけをしていた姉が「足腰弱いんかな」と心配してたとか、カリビアンコムする前に「生きたくはない僕等」という曲を出していて、「死にたいより『生きたくはない』のほうがネガティブに響くな」と当時思ったことなどを話たかったけれど、「コイツほんまよう喋るな~」と思われるのがイヤなのでやめた。それにカニさんは「アプリの会社の収益はどこから来るのか」「広告費かな」「パパであるためにサラ金に手を出すパパもおるんやろか」ということのほうに興味のある様子だった。

そのあと2人でラバンデリアさんへ。店内はキューバをモチーフにした色使いで、ユニフォームには戦争反対と書かれており、かつて週刊金曜日を愛読していたわたしとしては親近感がある。

リハが終わるとカニさんが「ノイズ漫談のセリフ覚えなアカンねん」と言って出かけて、わたしもひとところにおれない性分なので、散歩でもしようかと2丁目周りをぐるりと歩いた。だけど9ヵ月も経てば新宿のことも何となくわかっていて、ニキビのためにと野菜ジュースとC1000タケダをがぶ飲みした。

戻るとお客さんでいっぱいだった。カニさんのお客さんは気さくな方が多いので、ラバンデリアさんが振舞ってくれたご飯をみんなで取り分けたり、口々に「おいしい」と感想を言い合えたりしてよかった。

まずはわたしの出番で、45分の時間をもらった。演奏するときにその場の音と一体化すると、落ち着いて演奏できると気づいたので今回もそれを実践した。スピリチュアルなことを言うけれど、目を閉じて聞こえる音たちを耳が一本線にしてくれるのを待ち、それらに目で見るように、耳をすますと、じぶんの身体が次第になくなっていく感じがあって、すると力む必要のない演奏ができる、のだった。

それでも「火の輪くぐり」で違う音が途端混ざって取り乱してしまって、まだまだやなぁと思った。演奏を一旦やり直したりもし、でもカニさんが「火の輪くぐり、失敗して成長させてく曲やな~」と言ってくれたのでよかった

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カニさんは新曲「ワシのフェイクニュース」「馬場のキンタマ」(字面不詳)が大変ひどく、だからこそ万人を射抜くような楽曲が引き立つ。「ナチュラルフォーク」は武道館で聴くと絶対かっこいい。

播州平野に黄砂が降る」の「シャッター通りのマネキンが/目線を来世に向けている」というフレーズを聞いて、加古川の駅前を思い出した。大学生の頃、地元の同級生とワチャワチャしたいな、加古川やったら土山駅前よりかは何かあるやろ、となって勇んでいったけれど、何もなかった、あの夜に見上げたアーケードのくすみ方を望郷する。

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「どてらいバーガー店の波」という曲中のフレーズには、加古川にかかる橋を思い出す。大学生の時に唯一無二の親友・タカピュキと雨のなか自転車をこぎ、加古川を越えようとしたとき橋のたもとにマクドを見つけ、疲れていたけれどテンションが上がってそのまま通り過ぎたことがあったためだ。それから別曲に「信長書店のバッタもん」というフレーズがあるけれど、家のそば、明幹沿い、姫路の手前、龍野の入り口に“バッタもん”があった。この2フレーズには西に抜けていく荒涼とした土地、その諦観と恍惚がある。

誰も取り上げない景色だけれど、それは確かにこの世界に存在するから、人はいつか懐かしむ。カニさんの歌はいつか、播州の文化圏の研究に役立つと思う。ジョン・フェイヒイみたいになるんかもな。

ライブのあとはカニさんと、カニさんの大ファンの斑鳩さんと、「さざなみ」でお世話になっている京都のサロン・ド・毘沙門さんと4人で打ち上げをした。

明石と加古川で育った人間が、新宿で歌を歌うって、すこし不思議なことやなと思いながら終電で帰る。年齢や経歴は違うけれど、まるでおなじ土やコンクリートを踏んできたような気持ちになる。

1.一億の夜 2.白い栄華 3.千年 4.骨と燈 5.みなかみ 6.架空 7.火の輪くぐり 8.よすが