Negishi Takuhei

根岸卓平の演奏日程と、その後記

【後期】2018.05.22(火)於 大久保 ひかりのうま

【出演】

後藤真一郎
ババカヲルコ
夜久一 
根岸卓平 

ご来場ありがとうございました。


「ひかりのうま」さんは、関西にいるときからお名前をよく耳にしていて、どんなとこなんやろうと思っていたけれど、すごくいいところだった。お店の雰囲気もわたし好みで、お店の方々もとても柔らかだった。


後藤さんはギターがとても上手で、いい声だった。わたしより年下と聞いて、少し驚く。ババさんの声、とても可愛かった。ピアノが弾けるっていいなぁ。夜久さんは、子供と老いた人たちの、あいだにいるような声だった、それは少年でも青年でも中年でもなく、そういう、”楽器”だった。目まぐるしくも、間を大切にするギターもカッコよかった。


私は声に引っ張られるような、演奏がしたいなと思っていた。今まで、ギターが不得手なじぶんが、とてもニガテで、ギターにばかり集中してしまって、するとまるで歌っているのが楽しくないと気づき、どうせうまく弾けないのなら少し開き直ってみようと思いました。人それぞれだと思うけれど、わたしはギターより断然、声の方が直感的にわたしの心情を汲み取ってくれるし、信じるに足る素直さもあると思う。


ババさんが、神戸ってネギシさんみたいな人がいっぱいいるんですか、と言ってくれて面白かった。思ってもない質問だったので、じぶんも「いえ全然!荒野です!」とよくわからない返答をしてしまった。


観てくださった方々とたくさんお話しできたのもよかった。お店の自家製ツナが美味しくて、お酒もいくつか煽ってしまった。


ひかりのうまさんを出て、清岡さんと新宿で飲み直す。中央線の終電に乗って、2人して国立で下りる。駅前のバス停に座って、コーヒーを飲む。


「あなたの音楽って、コアな政治性がありますよね」。初めそう言われたときに、よく意味がわからなくて、政治性というのが、わたしにとって曖昧かもしれません、と真意を訊ねると、清岡さん曰く、人間の思いや考えは、何も言葉にできるものだけでなく、仕草や所作に出るもので、それはもちろん、政治にまつわる態度や意見の表明方法につながるものだという話だった。だから、その考えで行くと、無音を信じて演奏に還しているわたしは、”コアな政治性”を持っている、という話だった。


東京に来てから、曲を10曲くらい作っては全部捨てていて、それはせっかく東京に来たんだし、いつもとは違う曲を作ろうと思って作ったもので、そういったものの中に、社会的なステイトメントを”わかりやすく”織り込んだような、歌を作ったりもしていた。


わたしはSigur RosとAntony&the Johnsons~Anohniが好きで、どちらも愛おしい音楽で、Sigur Rosの方は、ヨンシーがゲイであると公言している以外、音楽に関して彼のセクシャリティが表出するようなことはまるでない。それは彼が造語で歌っているという点でも明らかで、一方アントニーの方は、割とセクシャリティと歌は切り離せないもので、最近はことに政治的なアティチュードの色も強いようにも思う。それがいいとか悪いではなくて、でもわたしは、ヨンシーの音楽のスタンスに惹かれる。匂い立つ”政治性”がSigur Rosにはあると、ずっと信じている。あればいいというわけではないけれど、思い返した時にふと、あると信じれるような。だけど雑誌を見ると、シガーロスよりも断然アントニーの方が、たくさん”語られている”。当然といえば当然だけれども、釈然としない感もあり、試しに作ってみよう、と相成った。


とはいえ、途中で飽きていく自分にも気付いた。作れば作るほど、つまらなくて、直接的な表現をわたしがすると、どうしても嘘っぽく聞こえるし、何より、“言外の意味”を信じたいのだとも気づく。


わたしは、言葉の持つイメージが別のイメージに反応して、また新たなイメージを呼応び、さらなるイメージを作るようなものが好きだし、それは音とか目に見えるものとか、その時に触れるものや舌の感じ、匂い、全てがより重要なものとして捉えられるように思う。それは今まで表現し得ていたものではない、違うイメージやメッセージを産むものだと思うし、単にワクワクする。


無音の持つ情報量を信じているのもそうで、無はあらゆる音と響き合っている。清岡さんはそれを「死者に向けて演奏する感じ」と自身の演奏について言っていた。


311の震災怪談を読み漁っていた頃、「怪談とは、死者と生者が出逢う場所」という表現を知り、言い得て妙だなと思った。わたしは清岡さんみたいに、死者に対し直接歌っているのではないけれど、ひとの心の中にある亡くなった感情や、ないものとされている記憶とか、そういったものに歌えたらいいなと、思っている。それはわたしの”政治性”のひとつと言える。


そう言ったことが清岡さんには伝わっているんだと思うと、嬉しかった。お互いやっている音楽は違うけれど、シンパシーを覚えるのは、そういうことなのかもしれない。


スマホの隠しフォルダにある「秘蔵の塩顔ガリガリおじさん(身長低め)コレクション」を見せたりして、「本当にどうでもいいです」と言われたりしていると、気づけば3時半になっていた。清岡さんとバイバイして、迎え酒に缶ビールを一本買って飲んで帰る。


家の前に立つと、家主のおばあちゃん家の鳩時計が、4時を告げていた。


1.鳳 2.白い栄華 3.黄金の鳴る 4.架空 5.骨と燈 6.千年 7.一億の夜

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