Negishi Takuhei

根岸卓平の演奏日程と、その後記

2017.10.25(水) "森田雅章の災厄" 於 梅田 ハードレイン

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≪出演≫
ゴンゴンズ奥村 寺田遼一 浜谷俊輔 安田支度 加納良英 みのようへい ルイ・リロイ カニコーセン 郷土みやげ 根岸卓平

森田雅章トラディシオンカントリーバンドセット:
森田雅章 中川裕太 矢田伊織 多門伸 iidie kazoo

森田さんのあたらしいカセットの発表を記念した、トリビュートライブでした。それぞれが森田さんのうたを披露して、森田さんはまたそれぞれのうたを返す、といったスタイルでした。

さいしょお話をいただいたときに、森田さんのうたはたくさんあるから、どれがええんかなとボンヤリと考えていた。「動物病院の前」「カレーの歌」といった名曲然としたうたはほかのひとが歌ったほうが映えるだろうし。

森田さんに訊ねてみたら「キャンディガール」をうたってみてよ、とのことだった。「キャンディガール」は森田雅章トラディシオンカントリーバンド幸福の王子」に収録されているうたで、うたへの思いは、まえにブログで書いていて、たぶんそれを覚えててくれてはったんかな。そうなると確かにじぶんも歌い甲斐があるし、じぶんの解釈もある程度行き進んでいるからやり易いやろうし、ええかもと思いました。

「きみはガットギターのよさがわかっていない」とまえに言われたことがあって(森田さんじゃないです)、その意味について、ここ数か月ずっと考えていた。その人が言うには、スラップベースみたいな弾き方が多すぎる、ということだった。つまり、音に勢いがあって硬い。そのときは「じぶんがしたいのはそういうことだからいいんじゃないの」と思ったのですが、時がたてば確かに、真理はどうであれ、「ガットギターのよさ」からすこし遠いことではあるよな、と思った。

なるたけギター本来の倍音とかやわらかさとかを支柱にした演奏がしたいなぁ、それに森田さんのほうの「キャンディガール」は牧歌的なバンドサウンドだけど、じぶんにとってこのうたは「フォーク」だから。独語でありたいと思う。

「難解ドアをたたく」というフレーズが出てくるのですが、「難解ドア」がなになのかわからなかった。歌詞の対訳に出てきそうなフレーズだなぁと思った、Difficult Doorと、韻もいいし。ともあれ、耳だけで聞くと「何回ドアをたたく?」にも聞こえるし、そういう風にも聞こえるように歌えたらなぁと思った。難解だから、何回もドアをたたくのだし。

森田さんは「千年」を披露してくれた。森田さんはまさに「独語」だった。焚火の前でひとり、言葉を重ねているようだった。しみじみと、でなく訥々と。それはギターの音にも出ていて、わたしのギターを使って演奏されてたのだけど、あぁ、こんなギターらしい音がこのギターから出るんだ。技術とか知識とか、趣味とか、そういうのもあるのだろうけれど、「森田さん」という「うた」だった。

のんちゃんの森田さんのマネがすごくよかった、コピーとカバーでいうと、あれは確かに「カバー」だった。クレイジーケンバンドも「完璧にぜんぶ再現する」というカバーをやっていた。ルイさんは間奏でうたの世界を表してて、やっぱりすごかった。

ゴンゴンズの奥村さんと森田さんがふたりして特撮の主題歌を歌っている姿、よかったな。前日に東京にいってて、夜行バスの運転手のおじさんたちがきゃっきゃ鬼ごっこしてるのを見ていたのですが、男のひとはいつまでたっても、少年なんだなぁ。

みのさんがすごかった。みのさんは、年々「ワルい男」になっててかっこいい。肩の力が抜けた、というより、じぶんの言葉をつかめているのだと思う。バンドのCDもすごくよかった。森田さんもカバーした「春」はほんとにすごい歌だと思う、「あの花をみていると/気がふれるだろう」というフレーズから最後の「見ていてやろう/しおれていくまで」という図太さ。うたのなかにその見ているだけで気がふれそうな「花」と「君」を思う心が共存しているのも、すごい。

みのさんのけだるそうな、半笑いなのに睨みをきかしたような声に、倉橋由美子の本に出てきた、「目は座ってるけど、口は笑ってる。それが鬼の顔」という節を思い出した。ルーズなタイム感があるのに、どこかタイトで「ちぐはぐ」なリズム隊もあいまって、「みのようへいと明明後日」というバンド名がすごくしっくり来た。

さいご森田さんが、中川さん矢田さん多門さんを従えて「カレーの歌」を披露した。結局森田さんが一番かっこよかった。森田さんはいろいろな種類の音楽を作ってきたけれど、そういうひとがオーソドックスなことをすると、そのひとの持つすごみがよくわかる。弾き語りもバンドも、そう。

はなしが前後するけれど「大学へ行けなかった君へ(当日はみのさんがフィードバックノイズをぶちかまして披露した)」は、90年代を生きたひとの「フォーク」だなと思う。じぶんにとってはカニさんもそう。それをしているひとはなかなか少ない。みんな、歌うことをやめてしまったから。

かえりにカニさんとすこし歩いて、いろいろはなせてよかった。むかしカニさんのまえでタバコを吸うのが恥ずかしかったことを思い出した。

さいごにみんなで写真でもとればよかったなぁ、と思いながら帰る。

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             写真は安田さん。森田さんに見られているわたし。